くちぶえ弾き吹き入門 – 3. 練習編 – f. レパートリーを広げる

i. 弾き吹き向きの曲

弾き吹きに向く曲、向かない曲

 弾き吹きに向く曲、向かない曲を考えてみたいと思います。向くと思っても試しに演奏してみたらそれほどでもなかったり、逆に最初にピンとこなくてもやってみたら意外と良かったということがあります。どんな曲でもやってみないと分からない、ということはあるので、気になった曲があれば試しにやってみるといいと思いますが、ただやはり、やりやすい曲、やりにくい曲はあります。

 楽器側の問題としては、楽器側があまり複雑だとどうしても口笛がおろそかになるので、楽器に自信がある場合や、楽器をメインにしたいようなアレンジなら別ですが、そうでなければ楽器側はあまり頑張らなくていい程度の難易度にするのがおすすめです。出て来るコードが沢山あったり、1小節でコードがいくつも変わるようなものは、少なくとも最初の頃は避けた方が無難です。

 また、歌詞や言葉の面白さ、声の魅力などで成り立っているような曲は、口笛ではなかなかその面白さを再現できません。どちらかというと、インストルメンタルでもよく演奏されるような、メロディーラインが魅力的な曲の方がやりやすいです。

 一方、ボサノバなどシンコペーションを多用したりしてリズムが少々複雑な曲の場合は、リズムが身体に馴染むまで練習が必要ですが、慣れてしまえばそれほど負荷なく演奏できるようになるので、チャレンジしてみるといいと思います。

 

ii. 移調の仕方

 一般に入手できる楽譜は楽器用や歌用のものばかりで、口笛用のものはまずないので、キーが合わないことがよくあります。人によって音域も多少違います。そこで、入手した楽譜から自分用にキーを変えるときに行うのが「移調」という作業です。

カポタストを使う

 一番簡単なのが、カポタスト(Capo)を使う方法です。これはコードを書き換えなくていいので楽です。1フレットにCapoを付けるとキーが半音上がります。ギターの場合、4〜5フレットくらいまでは違和感なく上げられると思います。例えば元のキーが「in C」だとすると、「in E」か「in F」くらいまでは問題なく上げられます。

 それ以上のフレットにもCapoは付けられますが、音色が変わってきたり、フレットの間隔が狭くなって、今までと同じようには弾けなくなったりするので、実際にはあまり見かけません。

 このようにキーを上げる方向での調整はある程度Capoで対処できますし、今後キーを微調整するかもしれない場合は、最初からCapo2(2フレットにCapo)くらいでアレンジしておいて、あとで上下できるようにする場合もあります。

コードを振り直す

 Capoだけでは移調しきれなかったり、アレンジ上の好みからコードを振り直す場合も多いです。
 その手順を説明する前に、この作業で使うと便利な「五度圏」の図について説明しておきます。

  • 一番外側の輪の英字はメジャーのキーまたはコードを表しています。
  • 真ん中の輪の英字はマイナーのキーまたはコードを表しています。
  • 一番内側の輪の文字は上記のキーの場合の調号の#またはbの数を表しています。(#7とb7は省略)
  • ローマ数字は(ここでは触れませんが)「in C」の場合のディグリーネームを表しています。

 次のやり方がコードを振り直す移調方法です。文章にするとちょっと長いですが、実際はそれほど複雑な作業ではありません。

1)まずは移調する先のキーを決めます。

  • 楽譜の最高音を確認する: 自分の音域との差を確認するために、楽譜を見てメロディーの最高音を探し、それが自分の最高音と比べて高いのか低いのか、またどのくらいの差があるかを調べます。(例:半音5つ分楽譜の最高音が高いとします)
  • 楽譜のキーを確認する: 五線譜の左端の調号を見て「五度圏」の図と照らし合わせて、判断します。仮に調号は#が3つだとするとキーは「in A」または「in F#m」です。(例:楽譜のキーは「in C」だったとします)
  • 移調後のキーを計算する: 例では、移調するキーは「in C」を半音5つ分下げればいいので、「in G」となります。計算したキーが、もしウクレレやギターで弾きにくいキーだったときは、もう半音1つか2つキーを下げてどうなるかやってみます。それでもだめな場合、さらにキーを下げてカポタストを使う方法もあります。

      なお、キーを決めるときに必ずしも自分の最高音ぴったりに合わせる必要はありません。曲によっては最高音を使うとちょっと音が鋭すぎてきつかったり、少し余裕を取りたいこともあります。そんなときはあえて最高音を使わずに少しキーを下げることを考えてみてください。

2)次にコードを振り直していきます。

  • 「五度圏」の図を見てください。円の一番上にCがあり、その一つ右がGです。つまり全て時計回りに1つ回したところがこの例での振り直すコードになります。「五度圏」を見ながらCならGに、FならCに、AmならEmに、G7ならD7に振り直していきます。

  • 例えば別の楽譜で、「in A」を「in F」に書き換えるような場合は、全て反時計回りに4つ回したところのコードに振り直せばいいことになります。

 

iii. アレンジの工夫

弾き吹きに向きにアレンジする

 弾き吹きで演奏する場合は、歌曲にしても、器楽曲にしても、楽譜本などにある楽譜そのままで演奏することはまずないと思います。すでに弾き吹き用にアレンジされている曲は現状ではまずありませんから、人前で演奏できるように曲を仕上げるときには、大なり小なり自分で弾き吹き用にアレンジを工夫する必要が出てきます。

 特に、歌の曲を口笛で演奏する場合、口笛では歌詞がない、ということは十分考慮する必要があります。前も触れましたが、何コーラスも同じメロディーを演奏するのは歌詞があれば成り立ちますが、そのままだと口笛では同じことの繰り返しになってしまいます。

 そういう意味では、アレンジ以前の選曲のコツとして、1コーラスがある程度長い曲の方が口笛ではやりやすいことが多いです。また、長調と短調の両方が出て来る曲や、途中でキーやテンポが変わる曲などもいいです。

 もしそういった変化の少ない曲でも、メロディーやリズムに魅力があればアレンジ次第で形に出来ることがあります。次に挙げるのはアレンジの一例です。

  • ルバート(rubato)とテンポ(tempo)

     rubato(自由なテンポで)とtempo(一定のテンポで)を組み合わせて変化を付けます。例えばイントロをrubatoで、そのあとをtempoで、さらにアウトロをrubatoにしたりします。

  • 伴奏の変化

     伴奏のパターンをいろいろ変えてみると、同じメロディーでも雰囲気が変わったりします。一例ですが、最初はアカペラっぽく伴奏を最小限にしてスタートし、次に静かな感じのアルペジオからだんだん音数を増やしたりします。そしてアウトロで、再び静かな感じに戻って終わるのもキレイです。

     間奏などでは、できそうな範囲で構わないので、楽器のソロをちょっと入れるととても効果的になることがあります。口笛もその分休めるので、ちょっとだけ楽になるかもしれません。

  • イントロとアウトロ

     元々イントロやアウトロがある曲は、それを口笛や楽器で演奏するのもいいかもしれません。曲のことをよく調べると、普段はあまり演奏されない、なかなか良い隠れたイントロがあったりするのでうまく活用するといいです。

  • リズムの変化

     例えば「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」などは4拍子のバージョンが有名ですが、原曲は3拍子だそうです。弾き吹きでは、ルバート→3拍子→4拍子→リタルダンドなどとリズムを変えて演奏しても面白いです。

     一般に、拍子を変えてうまくはまる例はあまり多くないですが、「星に願いを」やバッハの「メヌエット」のポピュラーアレンジなどは有名ですね。

  • 転調

     途中でキーを変えるのは、色々な曲で見られるアレンジです。弾き吹きの場合、必ずしもオリジナルの曲と同じ転調のキーにする必要はないので、弾きにくいコードにならないようにうまくキーを選んで転調します。CからD、DからGなどの転調は比較的やりやすいです。
     曲例の「ユ−・レイズ・ミー・アップ」や「ケセラセラ」はCからDへの転調は簡単で効果的です。

  • オクターブ

     転調と似ていますが、2コーラス目で1オクターブ上に上がるアレンジもあります。この場合、伴奏のコードが変わらないのでその点では楽です。ただ、これをやるにはいくつか条件があって、まず、元々の曲の音域がそれほど広くないこと、そして自分の口笛の音域が、1オクターブ上に上がってもカバーできること、が重要になります。

     つまり、1コーラス目の低音がしっかり出せて、かつ2コーラス目の最高音が余裕を持って出る必要があるので、多少難易度は高いかもしれません。曲例にはありませんが「シューベルトのアヴェ・マリア」などは、器楽でこのアレンジでよく演奏されます。

  • メドレー

     童謡唱歌などに多いですが、1コーラスがそのままだと短すぎるものは、裏技的にほかの曲とメドレーにする方法があります。マッチする曲を探すのはパズルのようですが、ピッタリ合ったアレンジが出来ると楽しいです。

     今まで実際に組み合わせた例では、ウイスキーのCMで有名な「夜が来る/小林亜星」と「ワシントン広場の夜はふけて/B・ゴールドステイン&D・シャイア」や、「竹田の子守歌」と「砂山/中山晋平」などがあります。

  • フェイク

     ポピュラーはもちろんのこと、クラシック音楽でも繰り返しの2回目は何かしら変化を付けたりします。あえて同じことを2回やることもなくはないですが、普通はそれを避ける感覚だと思います。

     ジャズのようなアドリブまでは敷居が高くても、2コーラス目でメロディーを所々フェイク(変えて)してみるのも面白いです。ちょっとしたフェイクなら難しくないのではないでしょうか。「1. プロローグ」の「弾き吹きサンプル(夜が来る)」の2コーラス目でそんなようなことをやっているのでご参照ください。

  • 口笛合奏

     口笛吹きが二人以上いるときは合奏も楽しいです。曲例の「野ばら」の楽譜に2ndのパートを書いておきましたので参考にしてください。
     但し、実際問題として、口笛合奏は意外と難易度が高いです。特に長く伸ばす音が問題です。音程が少しでもずれると違和感があるだけでなく、不快なうねり音が発生します。音程の良し悪しが直接でてしまうのでだいぶ練習が必要になるかもしれません。または、一方が長い音で、一方を短い音にするなどのアレンジの工夫も有効です。

 

 次の章では、いよいよ演奏編に入ります。

 

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