i. 吸気奏法
吸気奏法はやむを得ない場合だけに
ご存じのように、口笛は吸っても音が出ます。そんな楽器はハーモニカを除けばあまり聞かないですね。しかし、私見では次の理由から、吸気奏法はやむを得ない場合だけにした方がいいと考えています。
音が荒れる
吸気奏法は、通常の吐いて音を出す奏法と比べて、どうしても擦過音が増える(音が荒れる)という欠点があります。生音ではあまり目立たなくても、マイクを通すとよく分かりますし、イコライザーなどでも除去するのは難しいかもしれません。
音色に影響があると言うのはある意味致命的なので、なかなか使いどころが限られてしまいます。
口呼吸になってしまう
吸気奏法は、口から吸うことになるので、鼻呼吸のところで書いたように、外気が直接身体に入ってくるので喉や肺に悪影響が出る可能性があります。因果関係は不明ではありますが、長年吸気奏法を多用している奏者で、喘息に悩まされている方もいます。
カンニングブレスとして使う
ほとんどの場合、呼吸が十分に出来ていれば息は足りるはずなので、まず深い呼吸の身体の使い方をよく練習して、通常の奏法でやってみるのがおすすめです。
それでも、どうしても息が足りないときはあります。例えばヴァイオリンなど息継ぎを必要とせず、いくらでも音が延ばせる楽器の曲を演奏する場合などです。その様な場合カンニングブレスとして吸気奏法を使うのはアリだと思います。
その場合のやりかたですが、まずフレーズの中でなるべく低い音を見つけ、その1音だけで一瞬「スッ」と吸いながら音を出します。たいていの場合、それでフレーズの最後まで足りるはずです。
低い音で吸うのはその方が吸気奏法の「音の荒れ」が比較的目立たないからです。なお、2音連続で吸うのは音程が難しく、かつ音色の違和感が出やすいので、できれば避けた方がいいです。
曲例では「四季・冬より」(後日公開予定)に吸気奏法の指定箇所があるので参照してください。
ii. ビブラートとポルタメント
まずはノンビブラートから
「キレイな音を目指して」の章でも書きましたが、ビブラートはノンビブラートがキレイに出せるようになってからかけるのがオススメです。芯がない状態でのビブラートはフワフワして音高がはっきりしない印象を与えてしまいます。
ビブラートには音高を変える方法と、音圧(息のスピード)を変える方法の2種類があります。
音高を変えるビブラート
弦楽器で弦を押さえた左手指を揺らすの見たことがあると思いますが、音高を変えるビブラートはそれと同じイメージです。素早く上下に音高を揺らす感じです。うまく出来ない場合、舌を細かく素早く動かすのが難しいのだと思います。この動きは人によっては難なく出来ますが、そうでないとやはり練習が必要です。
- 最初はパトカーのサイレンを真似て、ゆっくり音を上下してみましょう。上下するときにカクカクせずに、できるだけなめらかにポルタメントします。
- それが出来たら少しずつ速くして、なおかつ上下の幅を少しずつ狭くしていきます。
口笛の場合、あまり振れ幅を大きくすると昔の特撮映画でUFOが飛んでいる効果音のようになってしまうので、ごく小さな振れ幅でやるのがキレイです。
音圧を変えるビブラート
音圧を変える方法は管楽器などで良く聞きますが、細かく息のスピードを揺らすことでビブラートをかけます。
- まず声で「ホホホホホ」と言ってみてください。
- 次にそれを口笛の音を出して同じことをします。喉で音を切らないように注意します。
- そしてその振れ幅と間隔をだんだん小さくします。
使い分け
楽器によってはどちらかしか出来ないものがありますが、口笛はどちらも出来ます。実際には求める表現に合わせて無意識のうちに使い分けています。使い分けにこれと言った正解はなく、センスの問題だと思いますが、例えば、非常に繊細で小さな音量の時に掛けるビブラートは音圧の方が向くことが多い気がします。
ポルタメント
ポルタメントもビブラートと同じく装飾技法の一つです。音高を無段階に変えるポルタメントが出来る楽器は意外に多くありません。クラリネットなども音域によっては出来ますが、実際には技術的に簡単ではないのに比べ、口笛は簡単に自在にできます。上手に使えば面白い効果があると思います。
但し、ポルタメントは多用しすぎるとクドくなるので、ここぞというときだけにしておいた方がいいです。特にメロディーの入りを、常に下からシャクるポルタメントを付けるクセがある人は要注意です。特にクラシックなどは雰囲気を壊してしまうことがあります。シャクらないでピッタリ音程を合わせて入るのは確かに容易ではないですが、訓練次第です。
意図的に入れる場合は、なんとなく上下するのは避けて、ポルタメントの始まりと終わりの音程と、移行するスピードをはっきり狙って、正確にコントロールしてやります。
iii. 長音階(メジャースケール)の練習
「長音階(メジャースケール)」と聞いて、ひょっとすると難しそうで読み飛ばしたくなったかもしれませんが、しばらくお付き合いください。大して難しいことは書いていませんし、口笛の場合もとても重要なことだと思っています。
音階を正確に捉える
どんな楽器でもそうですが、音階を正確に捉えて演奏する、というのは口笛の場合でも特に重要です。口笛演奏の場合、前奏の間にまずそのキーの音階を頭の中にイメージ(マッピング)して、そしてそれに沿ってメロディーを演奏しているのだと思います。もしそのマッピングの音程が実際の音階からずれていたら、生み出されるメロディーも全てずれてしまいます。
一度頭の中に作成したマッピングは演奏中に修正するのがなかなか困難です。よくある話しで、曲の最初から最後まで伴奏よりピッタリ半音高かったり、いつも特定の音だけがちょっと高かったり低かったりするのもそれが原因だと思います。
練習方法
この練習は、このように曲のメロディーの土台となる音階を正確に捉えるための基礎的な感覚を養います。この感覚の精度がよくないと音程感のある演奏は出来ない、とても重要なものです。
まず長音階(メジャースケール)を練習します。なぜか短音階(マイナースケール)より長音階の方が苦手な方が多いので、よく練習してみてください。
まず楽器を用意します。ピアノのような鍵盤楽器が一番いいですが、ギターやウクレレでも構いません。(チューニングをよく合わせてください)
もしまだなにも楽器がなければスマホアプリでもいいですが、できるだけ正確な12平均律の音程が出せるものを使ってください。
- 1)次の「in C」(ハ長調)の譜例に従い、楽器で1音ずつ音を出し、口笛も同じ音を楽器に続けて出します。ゆっくりと丁寧に、できるだけ正確な音程で音を出します。このとき音程を探るようにシャクったり、ビブラートをかけたりしないように注意します。まっすぐな音でピタ、ピタと正確に音程を当てていきます。
どうだったでしょうか?
ヴァイオリンなどでも音階がある程度正確に弾けるようになるまで結構時間が掛かりますが、口笛でも実はなかなか難しいと思います。音階が身体に馴染むまで繰り返し練習します。
特に注意が必要なのは、ミ〜ファの間と、シ〜ドの間の音程です。以下の鍵盤の図をよく見てください。
ミ〜ファ間とシ〜ド間だけが半音一つ分、ほかは全て半音二つ分(=全音一つ分)の音程になっているのが分かると思います。そのため、よくありがちなのが、ミからファに上がるときに少し上がりすぎ、ソ〜ラ〜シがその分だけすべて高めにずれてしまい、シからドに上がるときにさらに少し上がりすぎるパターンです。下りも同様の場所で今度は下がりすぎることが起きます。
そのため、ミ〜ファ間とシ〜ド間は意識して狭めに音程を捉える必要があります。
- 2)最初のドの音だけ楽器で取って、あとは口笛のみで1)と同じことをやってみます。吹いているときは自分ではなかなか分かりづらいので、出来れば録音してチェックするか、誰か耳のいい他の人にチェックして貰うのもおすすめです。
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3)正確さを保つことに気を付けながら、テンポをだんだん速くしてみます。
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4)一通り出来るようになったら、ド以外の音から始めて同じことをしてみましょう。レから始めるとすると、キーをDの音階としてやります。高い音が出にくければ1オクターブ下げて始めて構いません。
よく使われる他の5つのキーを次に掲載します。なお、長音階では「in C」以外は移動ドか固定ドで読み方が変わってくるので「ドレミ」は併記しませんので、必要であれば書き足してください。
純正律
純正律の長音階の場合、移動ドで読んだ時のミ、ラ、シが12平均律より少しだけ低めになります。これらの3つの音が逆に高めにずれていると違和感が大きくなることがあります。ピアノより少しだけ低めに取るつもりでちょうどいいです。
口笛の場合、基本、純正律で音程を取る(取ってしまう?)と思うので、このあたりの認識は大事になってきます。
純正律についてはここでは掘り下げませんが、ご興味のある方はどうぞご自身で調べてみてください。
iv. 短音階(マイナースケール)はちょっとだけ複雑
旋律的短音階と自然的短音階
次に短音階(マイナースケール)です。
短音階は何種類かの音階を使い分けることになるので、長音階に比べると少し複雑です。ここでは詳しい説明は避けますが、まずは上りの短音階を旋律的短音階(メロディックマイナースケール)、下りの短音階を自然的短音階(ナチュラルマイナースケール)で練習します。
その名前は覚えなくてもいいですが、次の「in Am」(イ短調)の譜例をよく見て「ファ」と「ソ」の音が上りと下りで変わっていることに注意し、その響きを憶えてください。試しに上りと下りの音階を逆にしたらどうなるかやってみてもいいでしょう。上りはともかく下りはかなり違和感があるはずです。
短調の曲の楽譜があれば、どの短音階を使っているか、確認してみるのもいいと思います。
練習方法
- 1)長音階と同様、譜例に従い、楽器で1音ずつ音を出し、口笛もできるだけ正確な音程で音を出します。
短音階では上りはシ〜ド間、ソ♯〜ラ間、下りはミ〜ファ間とシ〜ド間が半音一つ分なのに注意します。やはり音階が身体に馴染むまで繰り返し練習します。
- 2)これも長音階と同様、最初のラの音だけ楽器で取って、あとは口笛のみで同じことをやってみます。
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3)正確さを保つことに気を付けながら、テンポをだんだん速くしてみます。
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4)一通り出来るようになったら、ラ以外の音から始めて同じことをしてみましょう。レから始めるとするとキーをDm(ディーマイナー)の音階としてやります。高い音が出にくければ1オクターブ下げて始めて構いません。
よく使われる他の2つのキーを次に掲載します。なお、短音階では「in Am」以外は移動ドか固定ドで読み方が変わってくるので「ドレミ」は併記しませんので、必要であれば書き足してください。
純正律
純正律の短音階の場合、移動ドで読んだ時のド、ファ、ソが12平均律より少しだけ高めになります。また、ファ♯、ソ♯は逆に少しだけ低めになります。なかなかやっかいですが、逆の方向にずれるとやはり違和感が大きくなることがあります。
次の章では、レパートリーなどの話題を取り上げてみます。