くちぶえ弾き吹き入門 – 4. 演奏編 – a. 人前で演奏

i. マイク無しでの演奏

最初はマイク無しで

 もし人前で演奏するのが初めてなら、最初はマイク無しで大丈夫な状況で、マイク無しで演奏して慣れるのがオススメです。慣れてくればマイクを使った方がかえって演奏しやすいのですが、マイクの扱いなどにも慣れが必要です。最初は演奏自体で手一杯でしょうし、生音の響きも知っておいた方がいいと思います。
 生音での口笛と楽器のバランスに注意しながら演奏してみてください。

マイク無しで大丈夫なケース

 口笛の場合、音響的にマイク/スピーカー無しで大丈夫なケースは実はかなり限られます。口笛は楽器としては音量は非常に小さいので、楽器側が普通に演奏したらかなりかき消されてしまいます。だからといって口笛がフォルテフォルテでやると表現的には不自然になるかもしれません。

 また、口笛はかなり遠達性(遠くまで音が届く)があり、逆にウクレレやギターは少し離れると途端に音量が落ちてきます。そのため、演奏者から客席最後列まで距離がある場合、適切にスピーカーを使わないと、前の席では伴奏が大きくなり、後ろでは口笛ばかり聞こえることがあります。

 部屋の響きによっても違いますが、静かな場所でも客席最後列まで普通はせいぜい5〜10mくらいまででしょうか。席数で10〜20がいいところだと思います。
 ホームパーティーや小さな集会所、カフェなどはちょうどいいかもしれません。

 

ii. 音響機器・マイクについて

 上記の規模を超えるような場所では「音響機器」を使います。弾き吹きで使う主だった音響機器等は以下のようなものがあります:

  • マイク(口笛用)
  • マイク(楽器用)
  • マイク(MC用)(口笛用と兼用の場合あり)
  • ミキサー
  • エフェクター類
  • アンプ
  • スピーカー各種
  • スタンド類(マイクスタンド、スピーカースタンド)
  • ケーブル類(各機器接続用)

 最初は会場にあるものを使用すると思いますが、口笛は音量が小さく音域も非常に高いので、ある意味かなり特殊な楽器です。ある程度慣れてきて、会場のマイクなどに限界を感じたら、マイク程度は自前で揃えてもいいかもしれません。

 ここではマイクについてのみ触れますが、それ以外の音響機器についても、ご興味があれば調べてみてください。会場によっては音響担当がおらず、自分でセッティングしなければならない場合もないとは言えないので、少しでも知識があると役立ちます。

口笛用マイク

 現状、口笛用として作られたマイクというものはないので、ほとんどの場合、ヴォーカル用のマイクを流用します。当然ですが、歌声と口笛では音としての特性が違うので、ヴォーカル用で評判が良いマイクでも口笛用としていいとは限りません。もし自分用に購入するときはできれば試奏してみた方がいいです。

ライブ演奏用の口笛用マイクとしておすすめの特性

  • 音質が柔らかいこと: 超高音域をよく拾い、音が硬くならないこと(耳障りにならない)。口笛は歌声よりだいぶ音域が高いので、マイクによってはそのような音域がキレイに拾えないことがある。
  • 感度がいいこと: 口元から少し離してもよく音を拾うこと。
  • 指向性が高いこと: マイクの正面(軸方向)の音だけを拾い、横方向の音は拾わない特性。少し離して使う場合、指向性が弱いと周りの音を拾ってハウリングを起こしやすい。

 どれも大事な要素ですが、特に感度がいいとダイナミクス、つまりささやくようなピアニッシモからフォルテまで表現しやすくなります。そういう意味では構造的に感度の良いコンデンサーマイクもいいのですが、感度が良すぎるために、特に音楽用として作られていないような施設などでは、周りの余分な反響を拾いすぎて音質が変わってしまうなど、扱いがやや難しい面もあります。

ウインドスクリーン

 マイクの外側にスポンジ状のカバーが付いているのを見たことがあると思います。ウインドスクリーンと言って屋外の風のあるときに使うと、風があたったときの「ボコボコ」音を緩和してくれます。演奏中に突然風が吹いてきたりすることもあるので、野外の演奏ではあらかじめ付けておく方が安全です。

 これを口笛の息の雑音を防ぐために屋内でも使う人もいますが、私見ではあまりおすすめしません。
 マイクの外側に余分なものを付けると、どうしても音をスポイルしてしまうということと、ダイナミクスをコントロールするためにマイクとの距離を調整するときに、スクリーンがあると距離が分かりにくくなる、と言うのが理由です。スクリーンを使っても息の音がゼロになるわけではありませんし、息の雑音は慣れればマイクとの距離と角度でかなり防ぐことが出来ます。

マイクの扱い方

  • マイクスタンドの調整: 弾き吹きの場合は通常マイクスタンドを使います。マイクスタンドは演奏前に良く位置を確認するようにしてください。演奏中に触るとノイズが入るので極力避けます。
  • マイクスタンドの向き: 通常はウクレレ/ギターはネックが身体の左側に来るように構えると思うので、マイクスタンドは右側(下手)から出した方が邪魔になりにくいです。
  • マイクとの角度: 口笛の場合かなり先まで息の流れが出ているので、マイクを顔の正面に置くと「ボーボー」という息の音が入ってしまいます。少し右か左にずらします。
  • マイクの軸の向き: マイクの軸をまっすぐ口元に向けること。よくろうそくを持つようにマイクを立てて持つ人がいますが、基本的にハンドマイクの感度と音質はマイクの軸の延長線上が最もよく、そこから外れるほど性能が出せなくなります。
  • マイクとの距離: ヴォーカルのように近づけすぎると息の音が入るので、最低でもこぶし一つ分は離します。息が入らなくなる距離はマイクとの角度やマイクの感度によっても若干違うので、実際に試してみるといいです。
  • マイクの持ち方: もし、弾き吹きでなく、伴奏者がいてマイクを手持ちで演奏する場合は持ち方にも配慮が必要です。マイクを包み込むように持つと音の抜けが悪くなり、ハウリングも起こしやすくなります。あまり強く握ったり、手の中で遊ばせたりすると「ゴリゴリ」とグリップノイズを拾ってしまいます。また、不用意にスピーカーの方に向けるとハウリングを起こすので十分注意してください。

ウクレレ/ギター用マイク

 ウクレレ/ギター用マイクについても少し触れておきます。
 よくあるのは、マイクスタンドを使ってウクレレやギターの前にマイクを立てる方法ですが、立って演奏する場合は呼吸などでどうしても姿勢が動いてしまうので、楽器とマイクの位置関係がずれやすいのが欠点です。ウクレレでストロークする場合は、楽器の音量も出るのでそれほど問題になりませんが、アルペジオを多用するような場合は、少しでもずれると音量や音質が変わってきてしまうので、その場合は次善の策として座って演奏する方がいいです。

 別な方法として、スチール弦のギターの場合は磁石式のピックアップを使う手もあります。ナイロン弦のギターやウクレレの場合は磁石式は使えないので、ボディーに内蔵できるピエゾという特殊なマイクを使うことがあります。ただ、どちらも音質がマイクとは多少変わってしまいます。

 知る限り、現在ベストと思えるのは、ウクレレ/ギターのサウンドホールなどに小型のダイナミックマイクやコンデンサーマイクを仕込む方法です。マイクによってはハウリングしやすいものもありますが、最近のよく出来たものはハウリングしにくく、音質も良いのでおすすめです。「Gadjetページ」でも紹介しているので参照してください。

 

iii. 演奏の準備

睡眠は大事

 声楽をしていた頃は「寝不足だと声が出ないから」とよく言われました。確かにその通りで、睡眠が足りていないと声を張る気力が出てこない感じでした。口笛も同じです。睡眠が十分でないと、気力ももちろん身体も十分に使えないので、音が伸びず、深い呼吸もしにくいです。人間楽器だけに、体調の良し悪しがはっきり出てしまうので、練習はともかく、本番演奏を控えているときはできるだけ睡眠不足は避けた方がいいです。同様に過労も良くないですね。

セットリストの作り方

 セットリストとは演奏する曲名を演奏順に書いたリストです。聴きに来てくれる方々の好みに合わせ、自分のレパートリーの中から曲を選んで、曲順を考えながら演奏に先立って書いておきます。

 リストの内容は人それぞれで、「こうするべき」と言うものはありませんが、お客さんが飽きないように変化を付けるように工夫するといいです。例えば、長調の曲と短調の曲を交互にしたり、ゆったりした曲とアップテンポな曲を交互にしたり、などです。
 そして一応1〜2曲程度、アンコール用の曲も入れておきます。

 曲数は曲間の時間も計算に入れた上で、演奏の持ち時間から割り出します。各曲の演奏時間はあらかじめ調べておきます。曲間の時間はMC(しゃべり)をどの程度入れるかによってかなり変わってきます。
 実際の演奏では不測の事態が起きたりするので、慣れないうちは数分余裕を取った方がいいでしょう。

チューニング

 ウクレレやギターは演奏直前にもチューニングします。チューニングには基準周波数があり一般的にはA=440Hz〜442Hzです。一人だけの時はそれで構いませんが、ほかの楽器と合わせるときは基準周波数を変えられない楽器、例えばピアノや鍵盤ハーモニカなどに合わせます。442Hzだったり稀に432Hzのこともあります。そのときになって慌てないように、あらかじめ自身のチューナーの基準周波数の変え方を確認しておいた方がいいです。もっとも432Hzは少し練習しないとなかなか口笛のほうの音程が取りにくいかもしれませんが。

 慣れないうちは演奏中にチューニングの狂いまでは神経が行かないかもしれませんが、もし違和感を感じたら曲間ですぐチューニングし直します。チューニングが狂っているとどんなにいい演奏をしても素人っぽくなってしまうし、口笛の音程にも悪影響があります。
 チューニングはできるだけ素早く終わらせ、できればチューニング中もなにかしゃべれるといいですね。

 

iv. 本番演奏

立つか座るか

 本番ではできるだけ立って演奏することをおすすめします。前にも書きましたが、深い呼吸がしやすくなります。また、立って演奏した方がお客さんから見やすい、と言うこともあります。その意味では譜面台の譜面はあまり立てずに少し寝かし気味に調整した方が、演奏者の上半身が客席からよく見えます。

暗譜するかしないか

 暗譜するか、譜面を見ながら演奏するか、については意見が分かれるところだと思います。基本的には暗譜で問題なく演奏できるのであれば、それに越したことはないです。しかし、弾き吹きは二つの楽器を同時に演奏しているのに等しく、ただでさえ集中力を必要とするので、例えばコード進行を思い出すのに神経を使うのであれば、譜面を見てしまった方がいいと思います。

 慣れてくれば、譜面上のコードを見ただけで左手は反射的にほぼ自動で動くようになるので、その分の集中力を表現などの方に使うことが出来ます。その意味で弾き吹きでは楽譜を見ながらの演奏は必要悪かもしれません。

 但し、最初から最後まで譜面から目を離さないのは、フロントのパフォーマンスとしてはあまりよろしくないかもしれません。要所要所で客席に視線を配れればベターです。その際、譜面に視線を戻したときに場所を見失ったり、段を間違えないように気を付けます。(たまにやります)

緊張しないためには

 生徒さんで、初めて人前で演奏したときのことを「幽体離脱」と表現した方がいました。頭が真っ白どころか、自分の身体が自分のものではないような感覚が演奏が終わるまで続いたそうです。

 普段あまり緊張しないひとでも、準備が不完全だったり、初披露の曲だったり、何らかの不安要素があるときは緊張すると思います。緊張イコール「集中」と考えれば、それ自体は決して悪いことではないのですが、それで普段の実力が出せなくなってしまっては問題です。

 出来るだけの準備をしておいて、あとはいかに本番演奏の機会を増やすかという、場数の問題も大きいかもしれません。何十回、何百回と人前で演奏するうちに、初めて経験する事態は少なくなっていくので、だんだんと余裕が出来てくると思います。

 

 次の章では、大会についてです。

 

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