くちぶえ弾き吹き入門 – 2. 準備編 – b. 楽器を入手する前にすること

i. 口笛の音域を調べる

弾き吹きの前に

 弾き吹きを本格的に始める前に、または、楽器が届くのを待っている間に、いくつかやっておくといいと思うことを書きます。
 とりあえず、自分の口笛の音域について把握しておくといいです。自分が出せる一番高い音と一番低い音を調べます。当然ですが、演奏する場合はその範囲内の音しか使えないので、それに収まるような選曲やアレンジ(キーの選択など)をします。そのためにもまず自分の音域を正確に知る必要があります。

 音を調べるために、なにか楽器を用意しましょう。ピアノ(スマホアプリでもいいです)、ウクレレ、ギター、リコーダー、何でもいいですが、一部のハーモニカなど半音階が出せないものは向きません。

上限を調べる

 まず、一番高い音を調べます。ピアノであれば、鍵盤の真ん中の「ド」の2オクターブ上の「ド」から始めます。ウクレレなら3弦の開放弦の「ド」、ギターなら5弦の3フレットの「ド」から始めます。
 楽器と同じ高さの音を口笛で出してみて、しっかり音が出たら、楽器を1音、限界が近づいてきたら半音上げてみます。どこかで音が出にくくなったら、その音の半音下が上限になります。何の音かメモしておいてください。

下限を調べる

 次に一番低い音を調べます。ピアノは上限の時と同じく、真ん中の「ド」の2オクターブ上の「ド」から、ウクレレは1弦の3フレットの「ド」、ギターは2弦の1フレットの「ド」から始めます。口笛は上限の時と同じ音で始めます。
 今度は1音か半音ずつ下げて行い、出にくくなった音の半音上が下限です。やはりメモします。

 稀に、ある特定の範囲の高さだけ音が出にくくなり、その上下は問題なく出る人がいます。どの高さが出にくいか、それもメモしておきます。
 調べた上限と下限の間が自分の音域になります。音域は練習とともに少しずつ広がっていくので、調べた日付も書いておきましょう。

演奏に必要な音域

 どのくらいの音域が必要かは曲によって違います。唱歌・歌曲の場合、音域の狭い曲なら1オクターブくらいでも演奏できる曲もあります。そして、1オクターブ半から2オクターブあれば大体の曲が演奏できるはずです。
 クラシックの器楽曲など、例えばピアノ曲、ヴァイオリンやクラリネットの曲などは音域がとても広いので、2オクターブ半以上の音域が必要になることがあります。どうしても自分の音域が足りない場合は、低音部分を1オクターブ上げるなどアレンジして演奏する場合もあります。

音色と音量に注意

 既に2オクターブ以上の音域がある方は、音色と音量にも注意するといいです。口笛の場合、高音域は比較的音量は十分出るのですが、その代わり音色が硬く鋭くなり過ぎる傾向があるので、耳障りな音にならないように注意します。
 逆に低音域は音量が出にくいので、なるべくしっかり音を出すことを意識します。その場合、低音域はより息を多く使うので、呼吸が重要になってきます。

 

ii. 姿勢と呼吸

呼吸は大事

 口笛はフルートなどの管楽器などと比べても息を沢山使う方なので、呼吸がとても大事です。呼吸が良くないと、息が足りなくて変なところで息を吸ったり、音が思うように出なかったりします。特に弾き吹きだと、どうしても楽器の方に意識が行きがちなので、ちゃんと習慣づけていないと猫背になって姿勢が悪くなったり、呼吸が浅くなったりしがちです。楽器を持つ前により良い姿勢と呼吸を身につけておきたいです。

肺活量

 肺活量が少ないとハンデになるか、と良く聞かれます。もちろん肺活量があるに超したことはないですが、それ以前に、身体を十分に使えていなくて呼吸が浅かったり、息が音にならずに無駄に出していることが多いように思います。まずその効率を良くするように練習したほうがいいです。そうすればほとんどの場合、呼吸で困ることはないはずです。

横隔膜を大きく動かす

 深い呼吸は「横隔膜」をできるだけ大きく動かすのがカギです。横隔膜とは肺と腹腔の境にあるドーム型の筋肉です。
 肺はそれ自体には筋肉はなく紙風船のようなものなので、横隔膜に力を入れると横隔膜が下がって肺が縦に伸び、空気が入ってきます。緩めると元に戻って空気が出ていきます。

胸を開く

このとき大事なのが「胸を開いておく」と言うことです。猫背になったり下を向いたりせず、軽く胸を張って目線を水平か少し上に向けます。そして「肋骨を上下左右に広げた状態を保つ」ことを意識します。
 胸を開いていないと、直径の小さな水鉄砲と同じで、肺の容積が小さくなってしまいます。息を吸うときも吐くときも胸を開いた状態を保ったままにします。吐くときに背中を丸めて胸を閉じてしまうと、次に吸うときにまた胸を開く必要がありますが、それでは素早い息継ぎが出来ないからです。

深い呼吸

 次に、横隔膜を意識して深い呼吸をします。まず口からゆっくり息を吐きます。唇を軽くすぼめて呼気に抵抗をかけます。ここではまず呼吸に集中したいので、口笛の音は出さず息だけにしてください。吐くときに横隔膜を緩めて膜が上に上がってくるのを感じるようにします。後半は腹筋も使って空気を押し出します。吐ききったときにお腹のヘソのあたりがへこんでいる状態がいいです。吐いているときも最後まで「胸を開いた」状態を保つようにします。
 そして一気に息を吸います。内臓の重さを使ってストンと内臓を落として、横隔膜を目一杯下に押し下げるようにします。同時に腹筋を緩めてゆったりとします。

目線と頭

 前述のように目線は水平か少し上を保ちます。頭は前傾でも後傾でもなく、胴体の真上にただ乗っかっている状態を作ります。口笛では舌が動きにくくなったりするのでなるべく顎は引きません。下顎から鎖骨にかけてはシワを作らずに軽く伸びた状態にします。

いつも横隔膜

 横隔膜は普段の生活ではまず意識しないところなので、有酸素運動を良くされている方でもなければあまり動かないのが普通かもしれません。続けていると少しずつ動くようになってきます。横隔膜を十分に動かす深い呼吸は身体にもとてもいい影響があると聞きます。

 

iii. 鼻から吸う

鼻で吸うメリット

 吸うときは鼻づまりなどでない限りは鼻から吸うのを基本とします。もし口から吸っている場合は、これを機会にできるだけ鼻で吸うことに慣れることをおすすめします。これにはいくつか理由があります。

  • 喉や肺を守る: 口から吸うと外気が直接喉と肺に入りますが、鼻から吸うと鼻の機能により外気の温度と湿度を調整し、異物を除去してくれます。特に冬や乾燥時期には大事です。
  • 吸う時間をより長く取れる: 口で吸う場合は、口笛を吹く唇の形を一度やめて、多少なりとも口を開けて息を吸います。そのため、吸気の終わりではどうしても吹く形に戻る時間が必要になります。鼻からの場合はその時間が必要ないのでコンマ数秒ですが節約できます。早い曲など、吸う時間が僅かしかないときほど有利になってきます。
  • 吸う前後で音が変わりにくい: 上の項で書いたように、唇の形がほとんど変わらないので、吸う前と後で音色や音程が変わる心配が少なくなります。
  • 唇や口内が乾きにくい: 鼻で吸った場合、唇や口内を通る空気は肺から外に出る方向の一方通行になります。そのため口内の温度や湿度が高く保たれ、口で吸った場合に比べて、口笛の大敵である唇や口内の乾燥を防ぎやすくなります。

鼻で吸うデメリットは?

 鼻で吸うデメリットを心配される方もいるので、少し触れておきます。鼻で吸う方が口よりやや抵抗を感じるので、同じ量の空気を吸うのに時間が掛かると思うかもしれませんが、練習を続けるうちに、吸う筋力もつくので気にならなくなります。それに肺の特性として、吸気にやや抵抗がある方が、かえって肺から酸素を取り込みやすくなるそうです。

 また、片方の鼻が常に詰まっているのを気にされる方がいますが、これは鼻の正常な状態で、鼻の穴を交互に休ませているそうですので、あまり気にしなくて大丈夫です。ただ、苦しいようなら無理せず口でも吸ってください。

マイクの時、花粉症の時

 マイクを使うときに、鼻から吸う音がマイクに入ってしまうのを気にされる方もいますが、実際にはほとんど気になりません。逆に口で吸っている方で「ハァ〜」という息継ぎの音が聞こえてきて、そっちのほうが気になることがあります。口の方がわずかですがマイクに近いので、音が拾われやすいということもあるかもしれません。

 但し、花粉症など何か理由がある場合は別です。無理せず口で呼吸して構いませんが、特に原因がなく、常日ごろ口呼吸をしている方は、演奏時だけ変えるのも難しいので、日常生活でも習慣的に鼻から吸うようにすることをおすすめします。身体にも良いはずです。

 

iv. 口笛を吹きながらリズムを取る練習

リズムは土台

 カラオケや生伴奏で演奏するのと違い、弾き吹きの場合は自分でリズムをキープする必要があります。そこが弾き吹きの難しいところでもあり、醍醐味の一つでもあります。リズムは西洋音楽の土台なので、リズム感はぜひしっかりと身につけたいところです。

 よく日本人はリズム感が悪いとか聞きますが、伝統的な邦楽や祭り囃子などでは相当複雑なリズムもあるので、そんなことはないと思いますし、アメリカの大会でも裏拍が取れない人も結構いました。要はリズムに慣れているか、親しんでいるかどうかだけの問題ではないかと思います。自分はリズム感に自信がない、と思っても、意識してしっかり練習すればどんどん良くなると思います。

リズムの基本的な取り方

 何か身体的な事情がない限りは、リズムは足で取るのがいいです。右足でも左足でも構いません。立ち姿勢の場合はつま先でもいいですが、なるべく「かかと」でリズムを取った方が疲れにくいはずです。そして、近所迷惑にならない程度に、はっきりと身体に振動が伝わるように踏みます。多少音が出ても構いません。

 リズムを取るときは、テンポにもよりますが、基本的には次のように表拍で踏みます:(例外もあります)

  • 4拍子: 1拍目と3拍目
  • 2拍子: 1拍目と2拍目
  • 3拍子: 1拍目

 拍が安定しているとより上手に聞こえます。逆にフラフラしていると一気に素人っぽい演奏になります。このリズム取りは演奏の拍を安定させます。洋楽など裏拍にアクセントのある曲や、ボサノバなどシンコペーションが多用されている曲で特に有効で、曲によっては口笛も伴奏もどちらも拍の上に音がないこともあるので、リズム取りがとても大事になってきます。

リズム取りの練習

 練習としてちょっとやってみましょう。前回取り上げた「ジャンバラヤ」を無伴奏でいいので口笛で吹いてみてください。その時に1拍目と2拍目を足のかかとで踏み、1拍目の裏と2拍目の裏を手拍子で入れます。つまり足と手拍子が交互になります。口笛を拍通りだけでなく、少しシンコペーションを入れたり、できればアドリブを入れながら練習してみてください。ちなみに2拍子の場合は、1拍目を右足で、2拍目を左足で、のように足を交互に使うと2拍子のノリを出しやすいです。

 この動きが弾き吹きの第一歩です。正確にリズムが取れるように、色々な曲で繰り返し練習してみてください。なお、この練習は自分でリズムをキープする練習なので、カラオケなどの伴奏を使わないでやります。

無意識に出来るように

 弾き吹きの場合はいろいろ同時にやらないといけないので、ちょっとだけ大変かもしれません。口笛を吹きながら、楽器を演奏しながら、さらに足まで踏んで・・・なので始めはゆっくりで構いません。最初は煩わしいと思うかもしれませんが、このリズム取りを基本いつも行うようにして「クセ」にしてしまいましょう。練習するうちにだんだん慣れてきて、無意識に出来るようになります。

リズムを取らなくていい場合

 リズム取りをやらなくてもいい場合も少しあるので触れておきます。例えばルバートなどで逆にリズムの感じが出ない方がいいときや、相当複雑なリズム(実際の演奏上のリズムと楽譜上のリズムがずれて記譜されているなど)の時などは無理に行わなくてもいいです。
 あと、一般的な西洋音楽のスタイルではなく、そもそも単一のリズムが土台になっていないような音楽も同じです。(例えば、山田耕筰の「からたちの花」など)

 

 次の章では「弾き吹きで使う楽器や選び方」などを書いてみます。

 

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