くちぶえ弾き吹き入門 – 2. 準備編 – c. ウクレレ/ギターを知ろう

i. 弾き吹きにはどんな楽器がいいか?

弾き吹きに向く楽器

 基本、どんな楽器を使っても構いませんし、そこは自由な発想でいいと思いますが、やはり向いている楽器、使いやすい楽器の要件はいくつかあります。例えば、コード楽器、撥弦楽器、移調しやすさ、音量バランス、持ち運びやすさ、普及度などがあります。

 結論を先に言ってしまうと、私のおすすめは「ウクレレ」または「ギター」です。もし慣れているのであれば「ピアノ」等の鍵盤楽器もアリです。以下で詳しく見ていきます。

コード楽器

 コード(和音)が出せる楽器、ウクレレ、ギター、ピアノ、アコーディオンなどは、もともと伴奏や合奏に向いているので、弾き吹きとの相性もいいです。もちろん、単音しか出せない楽器でも弾き吹きはできると思いますが、伴奏と言うより口笛との2重奏に近くなって、演奏の難易度が相当高くなることが想像できます。(ちゃんと出来たら面白いかもしれませんが)

撥弦楽器

 撥弦楽器は、ウクレレ、ギター、ピアノのような、弦を弾いて(または叩いて)音を出す楽器です。一方、ヴァイオリン属やアコーディオンなどは、長く音を持続できる楽器なので、口笛と合わせる場合、お互いの音程の僅かなズレで違和感や不快なうねりが生じることがあり、音程に関しては特にシビアになります。そのため、口笛の伴奏としては、撥弦楽器など、適度に音が減衰してくれる楽器の方がやりやすいことが多いです。

移調しやすさ

 口笛は2オクターブから、人によっては3オクターブ以上の音域を持ち、ヴァイオリンやクラリネットにも匹敵します。しかしそれらの楽器と違い、その音域の上から下まで十分に使えるわけではなく、よく響くのはせいぜいその半分から2/3くらいです。

 そこでほとんどの場合、そのよく響く音域を曲の聴かせどころに合うように曲を移調することが必要になってきます。また、本番当日の天候、体調等のコンディションや、演奏会場の音響の影響などによって、いつもより半音単位でキーを変えたい、ということもたまにあります。

 そんなとき、ピアノなどでは、指使いが変わってしまったりでやっかいですが、ギターでは「カポタスト」という器具を使って、ある程度は簡単に移調できるので、とても便利です。ウクレレの場合も、押さえるのが難しいコードが少ないので比較的移調も容易ですし、ウクレレ用のカポタストもあります。

<メモ> 電子ピアノなどは簡単に移調できる機能を持つものもあります。

音量バランス

 楽器の種類によって、もともと持っている音の大きさがそれぞれ異なります。例えばグランドピアノはとても大きな音まで出せますが、ギター、特にナイロン弦のガットギター(またはクラシックギターとも言う)の音はそれに比べてかなり小さいです。

 音響機器(マイクやスピーカーなど)を使う場合は、口笛と伴奏楽器で各々出力する音量を調整できるので、元々の音量の違いはそれほど問題にならないですが、マイク無しで演奏する場合は、生音の音量のバランスに注意が必要となります。
 口笛の音量は楽器としてはかなり小さいので、例えばピアノが弱めに弾いて、口笛が目一杯音量を出して、なんとか音量的にバランスしたとしても、口笛はダイナミクスを十分使えず、演奏全体の表現としてはやや不自然になることもあるかもしれません。

 生音の音量バランスとしては、ウクレレやギターは口笛ととても相性がいいです。

持ち運びやすさ

 携行性の良し悪しは意外と馬鹿になりません。ピアノの場合、会場にピアノがあれば手ぶらで行けますが、ない時はキーボードなどを持ち込む必要があるので、途端に重くなります。ハープなんかもみるからに大変そうです。ギターはガットギターならハードケースを入れても3〜5kgくらい、ウクレレはさらに軽くて1〜2kgなので容易に持ち運べます。これなら演奏の機会があるかどうかはっきりしない場合にも、躊躇無く持って行けると思います。

普及度

 普及度とは、一般によく使われている普及している楽器かどうか、ということです。珍しい種類の楽器を使うのも、それはそれで面白いかもしれないですが、普及している楽器は、練習方法や楽器自体の情報が豊富です。また、楽器を購入する場合には、選択肢が沢山あって、値段もよくこなれて良質な楽器が比較的入手しやすいと思います。もちろん中古の在庫も豊富です。
 特に楽器が初めてという場合は、普及している種類の楽器がおすすめです。

そのほか

 演奏するだけで大変な楽器、つまり難易度が高い類の楽器は、どうしても口笛がおろそかになってしまうので、あまり向きません。その点、ウクレレやギターは、コードを鳴らすだけであれば、楽器としては一番やさしい部類だと思います。
 なお、大会を視野に入れる場合は、大会の規定で使えない楽器についても確認しておく必要があります。

<メモ> 例えば、WWCでは自動演奏機能のある楽器や、ドラムスなどの大音量の楽器、セッティングに時間の掛かる楽器は使用できない規定があります。

まとめ

 すでに習得している楽器がある場合は、それを活用するのもいいと思います。もしコード楽器が未経験なら、これまで挙げたような理由から、ウクレレ、またはギターで始めるのがおすすめです。次項以降ではウクレレとギターについて掘り下げていきます。
 

ii. ウクレレについて

ウクレレについて

 ウクレレの重さはハードケースに入れても1〜2kg、ギターよりも格段に運びやすいですね。
 ウクレレはいくつかサイズがあって、よく見るのは「ソプラノ」サイズ。そして「コンサート」、「テナー」、「バリトン」と、だんだん大きくなります。弦長はそれぞれ異なり、概ねギターの3/4くらい、弦の数は4本が一般的で、弦の材質はナイロンが一般的です。

 弦の数が少ないということは、弦を押さえる左手の負担が少なく、弦の張りもギターより緩いので、弦楽器初心者でも扱いやすいです。

複弦タイプ、材質など

 弦が2本ずつ張ってある、複弦というタイプもあります。比較的音量(倍音)が大きく、ゴージャスな音が出ますが、音量バランスの面から弾き吹きにはあまり向いていないかもしれません。このへんは好みの問題ですが。

 胴体の材質はいろいろあり、材質によって音の特色が変わります。よく見る材質で言うと、一般にマホガニーは柔らかい音、ハワイアンコアはカラッと明るい音、スプルースは澄んだ音で、どれも口笛によく合います。好みのものを選んでください。
 また、組み合わせる弦の銘柄によっても音が変わります。

Low-Gウクレレ

 ウクレレの調弦方法(チューニング・各弦の音の高さの調整方法)には大きく2つあり、一つはHi-Gチューニングと言って4弦を高いG(ソ)にする方法と、Low-Gチューニングと言って4弦を1オクターブ低いG(ソ)にする方法があります。Low-Gにする場合は、4弦をLow-G用の弦に張り替えます。1〜3弦のチューニングはどちらも同じです。

 Hi-GとLow-Gでは響きや、それに向く奏法が少し違ってきます。Hi-Gの場合はストロークが楽しく、コロコロとした、いかにもウクレレらしい南国の軽やかな響きになります。Low-Gの場合は、音域も少し広がり、ギターのように指弾きでのアルペジオ(分散和音)がより効果的に使えるようになります。どちらにするかはやりたい音楽の好みでも決まってきます。

Low-Gはコンサートサイズ以上で

 Low-Gにする場合は、ソプラノサイズのウクレレだと、弦のテンション不足でややボヤッとした音になりがちなので、コンサートサイズ以上がおすすめです。

 テナーサイズは、ソプラノやコンサートに比べ、リッチな低音域が魅力で、2種類のチューニングがあります。一般的なGCEAチューニングだと、やや張りが強くて少し押さえにくいかもしれません。また、ギターに近いDGBEチューニングだと張りはいいのですが、Gコードの押さえ方でDコードの音が鳴る、と言った具合に押さえ方とコードの対応が違ってくるので、全て置き換える必要があります。それも慣れの問題ではありますが。

 弾き吹きに使う場合は、特にこだわりが無ければ4弦を「Low-G弦」にしたものをおすすめしています。一番の理由はギターのようなアルペジオが効果的に出来るので、そのため、アルペジオのパターンをいろいろ変えて、伴奏に変化を付けられるためです。そしてLow-Gなので「コンサートサイズ」をおすすめしています。

iii. ギターについて

ギターについて

 ギターの重さはハードケースを入れて3〜5kg、弦長は650mm前後、弦の数は6本が一般的です。音域はE2〜B5くらいで、意外にも3オクターブを超える広い音域を持っています。
 ギターには大きく分けて、弦にスチールを使ったもの(いわゆるアコースティックギターやエレキギター)とナイロンを使ったもの(ガットギター)があります。これらはギターの作りが違うので、あとから違うタイプの弦に張り替えることは原則できません。

アコースティックギターとガットギター

 ごく大雑把に言えば、アコースティックギターはストロークで演奏することが多く、音量が出せます。ストロークはピックというプラスチック片や爪を使って、ジャカジャカかき鳴らす奏法です。もちろん指弾きも出来ます。指弾きは一本一本の弦を指で弾き、クリアではっきりした音がします。

 ガットギターは、指弾きで演奏することが多く、柔らかい音が持ち味です。音量はアコースティックギターほどはないですが、その分口笛とも合わせやすいです。クラシックギターとも呼びますが、クラシック音楽専用というわけではなく、ジャズやボサノバなど、様々な音楽で使われます。

 難易度的には、弾き吹きで使用する場合には、どちらを選んでもそれほど変わらないように思います。一般にガットギターはネックの幅も少し広いので、手の小さい方にはやや押さえにくい印象がありますが、それも慣れの問題が大きいのではないでしょうか。
 どうしても難しい場合は、レディースサイズと言って弦長が630mm前後と少し短くて、ネックも細身のモデルもあります。

 ガットギターの場合、胴体の材質がシダー(杉の仲間)か、スプルース(松の仲間)が多いです。一般にシダーの音色は柔らかく甘い感じ、スプルースは芯のある明瞭な感じ。好みのものを選んでください。
 とは言っても、例えばラブバラードがシダーが合って、賑やかな曲がスプルースが合うとかいう、単純な話しではありません。その逆の場合もあるので、実際に口笛と合わせて試してみるのがいいと思います。

 アコースティックギターとガットギター、どちらを選ぶかは、音の好みとやりたい音楽次第ですが、やはり実際に口笛と合わせてみて、心地よく感じる方を選ぶといいと思います。

ギターの意外な利点

 ギターの意外な利点としては、新品同様の安価な中古が豊富、という点があります。もったいない話しですが、始めて間もなく「いわゆるFコードの壁」で挫折する独学の人が結構多いようです。ちなみにこの壁は、できれば先生について、段階を踏んで習得すれば、それほど難しいものでもないと思います。

<メモ> ちなみにウクレレは挫折はしにくいですが、よい使い道が見つけられずに押し入れにしまわれている、かもしれません・・・

iv. ウクレレかギターどちらにするか

特性を活かす使い道

 今まで書いてきたような違いを踏まえると、楽器としての特性と使い道が見えてきます。若干大雑把ですが、切りわけてみます。

  • Hi-Gウクレレの場合は、ストロークを主な奏法として、軽快に演奏するのがよく似合う。
  • Low-Gウクレレは、アルペジオが効果的で、ギターのサブセット(簡易版)のように使え、手軽に習得できる。
  • ギターはLow-Gウクレレでできることを概ね包含した上で、さらに1オクターブ半低い低音域を生かして豊かな表現ができる。例えばボサノバやクラシック音楽などは(ウクレレも工夫次第で出来るが)ギター、特にガットギターが向いている。

ギターの応用力

 Low-Gウクレレでも最初のうちは何ら不足を感じることなく演奏できると思いますが、ある程度経験を積んで、自分でコードアレンジを考えるようになると、弦の数が多く音域も広いギターを使えば、よりバリエーション豊かなコードで表現することができます。

 コードの自由度ではピアノには負けますが、同じコードでも低音域を使うか、高音域を使うかを選んだり、オンコード(ルート以外の音を最低音に置く)も駆使できます。始めたばかりの頃は、ピンとこないかもしれませんが、これらを使いたくなる場面は意外と早くやってくるように思います。

 また、歌の場合は、歌詞が違うので何コーラスも同じ伴奏でも成り立つ場面でも、口笛では何かしら、伴奏のパターンやリズム、コードなどに変化を持たせる必要が出てきます。そんな時にも、より自由度の高いギターの利点が生きてきます。

ギターにあってウクレレにないもの

 ギターにあってウクレレにないものと言えば、なんといっても低音弦の4,5,6弦の響きです。ギターでは主にベース音として使いますが、口笛が高音域なので、ギターの低音を活かしてより立体的なサウンドが作れます。これらの響きに魅力を感じたらぜひギターに挑戦してみてください。

左利きの人は左利き用モデル?

 ちょっと余談ですが、ウクレレやギターは左利き用のモデルもあります。左利きの人はそっちを選んだ方が良いのでしょうか?
 私見では、触ってみて違和感がそれほどでもなければ、右利き用でいいように思います。なぜなら右利き用の方が、新品にしろ中古にしろ、楽器の選択肢がはるかに豊富だからです。

 それに演奏では、どのみち右手も左手も日常生活にはない動きを憶えないといけないので、一から始める場合では特に差がない気がします。

<メモ> 私は元来左利きですが、ギター、ウクレレなど、楽器はほぼすべて右利き用を使っていて、特に問題は感じません。唯一例外はドラムスで、ハイハットは左手、スネアは右手でないとなぜかうまく叩けません。(普通は逆)

まとめ

 ウクレレにするか、ギターにするか、やりたい音楽がはっきりしているのであれば、よりしっくりする方を選べばいいと思います。ただ、普通はいろいろやってみたいでしょうから、応用範囲の広さからは、ギターをおすすめしたいです。

 但し、ギターは大きくて扱えそうな気がしないとか、ウクレレの音が好き、などの場合は、ウクレレで全然問題ないです。ウクレレでは出来ることがかぎられるというわけでは決してなく、アレンジ次第で十分いろいろなことが出来ますし、ウクレレの方が合う音楽も沢山あります。

 それに、ウクレレとギターの演奏技術は結構近いので、どちらか一方が出来れば将来的にもう一方に持ち替えるのも十分可能です。例えば、ひとまずウクレレで始めて、慣れてきたらギターもやって、曲によって使い分ける、というのもとてもいい方法だと思います。私もコンサートによっては持ち替えて演奏したりします。

 ウクレレとギターでは同じコードでも押さえ方が違ってくるので、最初はちょっとだけ混乱するかもしれませんが、意外とすぐ慣れてくるので、心配いりません。

 

 次の章では「楽器の購入について」などを書いてみます。

 

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